fc2ブログ

省省流転

歴史研究の日々のよしなしごとについて

広大附属教育研究大会と家族史の授業

しばらく放置状態だった本ブログですが、ぼちぼち再開せねば、ということで。

既に日付が変わってしまったが、12月1日(土)に開催された広島大学附属中・高等学校の教育研究大会に参加した。
よくよく考えてみると、母校へ顔を出すのは教育実習以来、実に18年ぶりで……というような話はどうでもよい。
社会科の部会に参加して、以下の2つの研究授業と2つの講演を拝聴した。

宮本英征「家族について考える―大英帝国期を事例にして―」
伊藤直哉「「きれいな海」から「豊かな海」へ―瀬戸内海について考える―」

棚橋健治「学びの深化を助ける教育方法の多様化―社会科学習機会としての博物館展示の有効性を高める―」
長谷川智「人は知らないことを知って、喜び、成長する」


研究授業に対する議論では、時間の関係もあって自分の発言では触れなかったが、伊藤先生の授業もCM企画という手法を通じて、生徒たちに自らのこととして干潟と海の将来を考えさせるという、非常に示唆に富むものであったと思う。

発言の機会が午前の部の一番最後だったということもあり、対象を宮本先生の授業に絞って、そのテーマ選択に対する賛辞と、2011年7月2日に開催された日本学術会議・史学委員会主催のシンポジウムの話に触れて、ジェンダー史という切り口の重要性はかなり認識されるようになったものの通史の中に整合的に組み込む作業はまだ途上であること、参考資料として大阪大学歴史教育研究会で今年前期に行われた報告の報告資料もあることの情報提供をするに留めた。
状況から見て話の意図が十分伝わっていないようでもあり、念のために以下に関連情報をメモしておくこととしたい。

2011年7月2日に開催された日本学術会議・史学委員会主催のシンポジウム「歴史認識を変える―歴史教育改革とジェンダー」については、『歴史評論』748(2012年8月号)の特集という形で各報告と議論の詳細が掲載されているので参照されたい。
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/magazine/contents/kakonomokuji/748.html

大阪大学歴史教育研究会のウェブサイトでは、例会報告の際の配布資料をPDFファイルとして公開している。

 2012年度の報告資料(ウェブサイト):http://www.geocities.jp/rekikyo/kiroku_2012.html

また、関連する例会での報告内容と、歴教研公式ブログおよび研究会代表の桃木先生のブログでの関連記事は以下の通り。

【第59回例会】2012年4月21日(土)
 桃木至朗(大阪大学大学院文学研究科・CSCD教授)
 「大阪大学歴史教育研究会2012年度の方針について」
 三成美保(奈良女子大学・教授)
 「高校世界史教科書におけるジェンダー」

ダオ・チーランのブログ・パシフィック「面白いジェンダー史」

【第60回例会】2012年5月19日(土)
 鍵谷寛佑(大阪大学特任研究員)
「世界史に見る家族・親族・婚姻」
 コメント: 櫻田涼子(京都大学GCOE研究員)

公式ブログ「大阪大学歴史教育研究会第60回例会の概要報告」
ダオ・チーランのブログ・パシフィック「世界史に見る家族・親族・婚姻」

【第61回例会】2012年6月16日(土)
 桃木至朗(大阪大学大学院文学研究科・CSCD教授)
 「王権とジェンダー~東・東南アジアを中心に~」
 コメント: 京樂真帆子(滋賀県立大学・教授)
       宇田川妙子(国立民族学博物館・准教授)

【第62回例会】2012年7月21日(土)
 猪原達生(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程)
 「中国・朝鮮のジェンダー―近世の宗族と女性を中心に―」
 コメント: 青木敦(青山学院大学・教授)
       豊島悠果(神田外語大学・講師)

ダオ・チーランのブログ・パシフィック「中国の宗族」
ダオ・チーランのブログ・パシフィック「「女性の地位」を論じる難しさ」

なお、桃木先生のブログ(http://daiviet.blog55.fc2.com/)には他にもジェンダー史関連の記事が多数あるので、右上の検索窓から「ジェンダー」等のキーワードで検索することをお勧めしておく。

以上の関連記事に目を通していただければ言うまでもないことだが、「家族」「ジェンダー」というテーマ自体はすぐれて歴史的なテーマである。
通史的叙述が追い付いていないのはあくまでも歴史学研究者の責任であり、こういったテーマ選択を授業実践で躊躇する必要は全くないと思う。
ただ、通史的叙述が追い付いていないということは授業で扱う上で相応の困難が伴うのも事実であり、こういう問題には現場の教師が個別に対応するよりは、研究者や他の教師たちとの連携と協力でもって立ち向かうのが適切だと考える。

なお、こうしてみると、桃木先生のブログの充実ぶりに比べて「公式ブログ」の記事がまったく追いついていないことが改めてよくわかる。
すべての報告について報告資料が公開されておらず、特に上記の例会についてはコメント報告の報告資料がほとんど掲載されていないので、例会当日の雰囲気や議論のポイントなどはブログ記事に頼らざるを得ない。
報告資料については報告者の都合もあるので掲載できないケースが生じるのはやむを得ないのだが、せめて参考文献だけでもリストアップしてもらえると随分助かるのだけれど……。

テーマ:歴史 - ジャンル:学問・文化・芸術

学会・研究会 | コメント:3 | トラックバック:0 |
<<ブログのテンプレートを変えてみました | ホーム | 関西大学ICIS主催国際シンポ「周縁と中心の概念で読み解く東アジアの「越・韓・琉」」>>

コメント

岡本先生へ

先週の金曜日(2013年2月22日)は、私たち大学院生の企画した飲み会に来て下さり、ありがとうございました。申し込みの受付対応をした院生と申し上げれば、私が誰かお分かり頂けると思います。
飲み会の中でブログの話が出ていたので、先生のお名前で検索し、拝見がてらこちらの方でお礼をお伝えしようと思いました。とりあえず、いちばん新しいエントリーに書かせて頂いています。


実は私もブログをやっておりますが、先生ほど専門的な内容ではありません。それほどのものが書けないというのが理由の大半ですが、実際には見る人間が大体私の身内(友人)だからということと、歴史の知識が全くない人でもとっつきやすいものにしたいという思いがあるからです。
先生のブログやツイッターでも歴史教育についての話が出てきますが、私はまず一般の人に「歴史って面白い」ってことと、「今の自分たちとつながっているものなんだ」ということを判ってもらいたくてブログを書いています。大抵の人は世界史というと、年代や事項を暗記させられる、自分達との関係がないものというイメージしかないと思います。でも実際には、過去の人たちの様々な頑張りや失敗の積み重ね(それ自体が人間くさくて面白いというのもあるけれど)が、今の私たちの生活を作る一つ一つの要素の根底にあるし、今社会問題となっている数々のこと(特に国際問題)を本当に理解するには世界史の知識が欠かせません。歴史教育における世界史の軽視の根本にあるのは、世界史だって私たちの一部なんだよってことへの無理解なんだと思います。多くの人がこんな考え方だったら、研究者の人がいくら訴えたところで、その声は社会の大半の成員である、研究者ではない一般の人へは届きませんよね?だから今できることは、一般の人の世界史への理解の裾野を広げることなんじゃないでしょうか。なので一般の方向けの話のつかみなら、「テンペスト」を出してもいいんじゃないかと思いますが。。。

とはいえ自分を省みると、なかなかできないですけどね・・・私は自分の専門が日本史なんで、エントリーも日本国内のことに偏っちゃってますけど。でも、日本史だって昔に比べると、判ってない人が多くなったってのは感じます。判りやすいのは大河ドラマで、最近視聴率が高いのは内容的にレベルが低いなぁ、と思います。竜馬や信長から離れると、視聴率が低くなるのは、みんなが歴史をエンターテイメントとして楽しむ能力の低下が背景ではと感じます。「琉球の風」や「太平記」をやってた頃の大河は、チャレンジ精神に溢れてたなぁ。エンターテイメントとして楽しむこともできない人が、きちんとした歴史教育への理解とか、できるわけがないですよね。


あと、飲み会の時に、地方の学生は研究を進める上で、史料の閲覧や取得、指導者を得る面でのハンディを有しているという話が出たのですが、それは同じ研究をしている仲間を見つけることについてもいえると思います。でも、この世にはネットというものがあるのですよね(笑)
先生と同じようにブログやHPで自分の研究内容を書いている人を辿っていったら、仲間に会えるかもしれないし。自分のブログにも修論の内容を書いてみようかと考えています。ただ、今は就活中でして、就いた仕事によっては、研究との両立も許されなくなるかもしれないので、そこが悩みどころではあります。


長々とすみません。このご時勢なのでアジアの交流史も興味があり、特に尖閣・竹島問題の背景となる話などを聞きたかったのですが…別の先生の授業と迷ってしまい、取らなくてごめんなさい(汗)ですけど時々こちらの方へも立ち寄らせていただきます。


2013-02-25 Mon 22:39 | URL | 五葉 [ 編集 ]
五葉さん
しばらくこのブログも開店休業状態でしたので、コメントに気付くのが遅くなってごめんなさい。
その節はお世話になりました。

“実は私もブログをやっておりますが、先生ほど専門的な内容ではありません。それほどのものが書けないというのが理由の大半ですが、実際には見る人間が大体私の身内(友人)だからということと、歴史の知識が全くない人でもとっつきやすいものにしたいという思いがあるからです。 ”
“私はまず一般の人に「歴史って面白い」ってことと、「今の自分たちとつながっているものなんだ」ということを判ってもらいたくてブログを書いています。”

それは素晴らしいことですね。
恐らく、私のようなガチガチの歴史業界利害関係者(笑)よりも、ずっと伝わる内容の文章を書いておられるのではないかと思います。
もしよろしければ、ブログの方も御紹介ください。

日本史の研究仲間ということであれば、ネット上で見つけることはそんなに難しくないはずです。
琉球史のようなマイナー分野ですら、それなりに見つかるくらいですから。
あとは、そこで得た繋がりや知見をどう生かしていくか、でしょうか。
いろいろ大変だと思いますが、頑張ってください。
2013-04-01 Mon 17:50 | URL | おかもと@管理人 [ 編集 ]
岡本先生へ

一ヶ月も前にコメントを頂いていたのに、返事が遅くなりまして、誠に失礼致しました。
私のブログは歴史ネタだけではなく、全く関係のない日々の出来事を記しただけのエントリーもあり、お恥ずかしい内容ですが、こんなのでよろしければ。まずはご覧になってみて下さい。

歴女五葉のぷらぷら日記 
http://viva-myhometown.tea-nifty.com/blog/

近々、修論で取り上げた方のお墓探し(+お墓参り)に行く予定なので、その時の記事をUPする際に、自分の研究に少し触れてみようかと考えています。修論の内容は、担当教官の先生に「(パクられることは)ゼロではない」と言われ、自分でもそう思うので、今まではほめのかすだけにしてきました。でも今回はパクられない範囲で(笑)、書いてみようと思います。
最も先生のサイトの、他のリンクの方々と比べると、レベルの低いサイトであることは歴然としておりますが。
2013-05-03 Fri 23:22 | URL | 五葉 [ 編集 ]

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |